コンビニやスーパーの棚で、ひときわ目を引く「○○店監修」の文字。
美味しそうだなと手に取ってみるものの、いつも買っている定番商品よりも少しだけ高いことに、一瞬ためらうことはありませんか?
「有名店の名前がつくだけで、どうしてこんなに値段が上がるんだろう?」
「『監修』って、結局は名前を貸しているだけじゃないの?」
時間もお金も限られている中で、その価格差に納得できる理由が欲しい。
そう感じるのは、とても自然なことです。
実は、その価格には「監修料」という単純な理由だけではない、商品が作られるまでの「仕組み」が隠されています。
この記事では、かつて商品部で多くの商品のデータ管理や販売の仕組みを見てきた視点から、「有名店監修」商品がなぜその価格になるのか、その裏側を解説します。
読み終わる頃には、価格の理由に納得でき、次にコラボ商品を見かけたときに、自分が本当に欲しいかどうかを自信を持って判断できる「選択眼」が身についているはずです。
「監修料」だけではない。価格に上乗せされるコストの内訳

多くの人が「名前代(監修料)が高いんでしょ?」と考えがちですが、実はそれだけではありません。
コラボ商品の価格には、大きく分けて3つのコストが反映されています。
1. ロイヤリティ(監修料)
もちろん、有名店のブランド価値(看板)を使うための費用は含まれています。
これが価格を押し上げる一因であることは事実です。
多くの人がイメージする通りの「名前代」ですね。
2. 原材料・製法のコスト
しかし、価格を押し上げている、より大きな要因はこちらかもしれません。
「監修」商品は、お店の味を忠実に再現することが最大のミッションです。
そのため、普段の(定番の)商品では使わないような特別な原材料をわざわざ仕入れたり、工場のラインでは難しい「手作業」の工程を加えたりすることがよくあります。
お店の「こだわり」を再現するためのコストが、価格に反映されているのです。
3. 開発・調整コスト
そして、監修元の「お墨付き」をもらうのは簡単なことではありません。
「もう少し、スープのコクが…」
「この麺の食感ではダメだ」
と、監修元の職人さんが納得がいくまで、何度も何度も試作とフィードバックが繰り返されます。
私が直接担当していたわけではありませんが、こうしたコラボ商品の開発担当者には、他の商品開発とは異なる独特の緊張感があるのをそばで見ていて感じました。
試作品をお店に持ち込むだけでなく、店主の「こだわり」を深く理解するために、ベンチマーク(目標)の商品はもちろん、それ以外の商品も徹底的に食べ込み、お店の哲学そのものを理解しようと努めます。
食へのこだわりが強い商品部の人間と、飲食店の職人さん。
異なる形の「こだわり」をぶつけ合い、信頼関係を築きながら一つの市販品を作り上げていくのは、本当に大変な仕事です。
ですが同時に、互いにとって新しいアイデアの糸口にもなる、非常にやりがいのある、成長できる仕事なのだろうと感じていました。

ちょうど最近見た動画で、コラボ商品開発の道のりを紹介していました。
私はエースコックの担当者の気持ちをかなり具体的に想像してしまい、途中で見るのが辛くなりました…笑 それくらいリアルです!
この開発プロセスにかかる人件費や時間は、通常のPB(プライベートブランド)商品とは比較にならないほど大きくなる傾向があり、それらも価格に含まれています。
データ管理の視点で見る、メーカーや小売店の「本当の狙い」

では、メーカーや小売店は、なぜそれだけの手間とコストをかけてまで「少し高い」コラボ商品を世に出すのでしょうか?
そこには明確な戦略があります。
1. 話題性による「集客効果」
「○○店監修」「期間限定」という言葉は、それ自体がニュースになります。
SNSで話題になり、それまでお店に来なかった層の人たちが「あの商品があるなら行ってみよう」と来店する「きっかけ」を作る、強力な販促(販売促進)効果が見込めます。
2. ブランドイメージの向上
有名店の持つ「こだわり」「本物志向」「行列のできる人気」といった良いイメージを、自社(小売店やメーカー)のブランドにも取り込む狙いもあります。
コラボをきっかけに、お店全体のイメージアップにつなげたいという思惑です。
3. 【元商品部の視点】「スポット」と「定番化」で“期待感”を作る仕掛け
私が商品部でデータ管理をしていた際、こうしたコラボ商品は、その役割によって大きく2つに分けて管理されていました。
ひとつは、期間限定のスポット商品(販促商品)です。
これは、売場に「目新しさ」や「楽しさ」をもたらし、お客様が来店する「きっかけ」を作る、先ほど述べた「話題性」の役割を強く担います。
もうひとつは、人気が出て定番商品へと育ったものです。
例えば、セブンイレブンのカップラーメン「蒙古タンメン中本」のような商品が代表的ですね。
これらは「定番」として売場に根付くと同時に、今度はその商品を「核」として、「北極」のような新しいバリエーション(スポット商品)を生み出す「親」のような存在になります。
特にコンビニという業態は、お客様が毎日立ち寄る可能性のある場所です。
だからこそ、「今日は何か新しいものがあるかも」という“期待感”が非常に重要でした。
鳴り物入りで登場する「スポット商品」も、そして「定番」から生まれる「新しい味のバリエーション」も、どちらもその“期待感”を演出し、売場を活性化させるための、データ上も欠かせない「仕掛け」なのです。
価格の裏側を知って、自分なりの「ご褒美」を選ぶ

「有名店監修」商品が少し高いのは、単なる「名前代」だけでなく、味を再現するための「原材料や製法のコスト」、そして何度も試作を繰り返す「開発コスト」がしっかりとかかっているためです。
そしてメーカーや小売店にとっては、利益以上に「話題性」や「売場の期待感」を作るための大切な戦略商品でもあります。
価格の裏側にある、こうした「仕組み」や「作り手のこだわり」を知ると、その価格の見方が少し変わってきませんか?
もちろん、毎日買う必要はありません。
仕組みを知った上で、
「今日はこの『こだわり』に価値を感じるから、自分へのご褒美に選んでみよう」
「今日は定番のいつもの商品で満足」
と、その時々で自分自身が納得して選ぶこと。
それが、情報に振り回されず、日々の買い物を賢く楽しむための「選択眼」だと、私は思います。



