スーパーやコンビニで、毎週のように目にする新商品。
特に、お弁当やパン、お惣菜といった日配商品は、季節に合わせて次々と入れ替わり、私たちの日常に彩りを加えてくれます。
私たちは「あ、新しいパンだ」と気軽に手に取っています。
しかし、その一つの商品が企画されてから、私たちの目の前の棚に並ぶまでに、どれくらいの時間がかかっているかご存じでしょうか?
情報が多すぎて何を選べばいいか分からない「選択疲れ」を感じていませんか?
そんな中で、買い物の「裏側」にある仕組みを知ることは、モノ選びの新しい視点を与えてくれます。
大手企業の商品部で日配商品のデータ管理や販売の仕組みづくりに携わってきた経験から、商品が世に出るまでの「裏側」についてお話しします。
私がいた商品部では、商品の企画開発から仕入れ、在庫管理、販売促進まで、商品にかかわるすべてを担当するMD(マーチャンダイザー)がいました。
私はそのMDを支えるアシスタントとして、データや販売の仕組みを整える仕事を担当していました。
そのため、同じ部署に新しく着任したMDには、アシスタントの立場から、まず「商品の安定供給」や「販売促進」といった日々の業務を支える”仕組み”を理解してもらう必要がありました。
この記事では、商品データ管理の視点から、当時の私が新人MDの方々に必ず伝えていた、「ヒットの土台作り」に不可欠な3つのポイントをご紹介します。
この記事を読めば、普段何気なく見ている商品の「発売日」や「バーコード」が、いかに緻密な管理の上に成り立っているかが分かります。
そして、日々の買い物が少し違った景色に見えてくるかもしれません。
なぜ「商品マスタ」と「バーコード」が全ての起点なのか

商品が「商品」として世の中に存在するためには、まず「商品マスタ」に登録される必要があります。
これは、いわば「商品の戸籍」のような大切なデータです。
そこには、商品名、価格、分類、仕入れ先といった、その商品に関するすべての基本情報が詰まっています。
そして、その商品を識別するためにもバーコードは欠かせません。
レジでの会計はもちろん、在庫管理、販売データの蓄積、商品の発注など、あらゆる場面で使われるのが「バーコード(JANコードなど)」です。
MDの仕事は、新商品の企画では「こんな商品を作りたい」という情熱からスタートします。
その情熱が形になり、商品の規格(価格、仕入れ先、分類など)が固まった段階で、私たち事務担当(アシスタント)の仕事が本格的に始まります。
「商品マスタへの登録情報は揃っていますか?」「バーコードの準備は?」と、仕組みの面からMDと連携し、商品をシステムに登録していくのが役割でした。
そして、開発以外の「仕入れ」や「在庫管理」「価格設定」といった日常業務でも、このマスタとバーコードがすべての基盤になります。
例えば、インストアコード(店内でバーコードを発行)を使うお惣菜と、ソースマーキング(工場で印字)のパンでは、マスタの管理方法もレジでの動きも、発注の仕組みも全く異なります。
この「データの仕組み」が整って初めて、商品はレジを通ったり、発注されたりすることが可能になるのです。
「安定供給」と「販売促進」を支えるスケジュール管理

MDの仕事と聞くと、新商品を企画・開発する華やかなイメージがあるかもしれません。
しかし、実際の業務では、開発はごく一部です。
むしろ、商品の「安定供給」をいかに守るか。
そのために、仕入れの計画を立て、在庫を管理し、「いつ、どの商品を、いくらで売るか」という販売促進の計画を立てる。
そうした日々の管理業務の方が、圧倒的に多いのです。
そして、それら全てに緻密な「スケジュール」が関わってきます。
例えば、新商品を企画してから発売するまでには、確かに数ヶ月単位の長い準備期間が必要です。
それと同時に、「来週の特売」を一つ実施するにも、データ管理の視点では「販促の登録締め日」が何日も前に設定されています。
その締め日までに正確な情報を登録しなければ、特売は実施できません。
緻密なスケジュール管理こそが、MD業務の要となります。
それがヒット商品を支える土台なのだと、データを管理する立場からいつも感じていました。
「締め日」が守られないと、全てが止まる理由

商品を発売日に、間違いなくお客様の元へ届けるため。
そして、計画した通りの価格や販促を実行するため。
各プロセスには、厳格な「締め日」が設定されています。
例えば、「商品マスタの登録締め日」「販促(セール)情報の登録締め日」「店舗への最終案内日」「商品の発注締め日」などです。
私が新人MDの方々に特に口酸っぱく伝えていたのが、この「締め日厳守」の重要性でした。
もし、新商品のマスタ登録が一日でも遅れると、どうなるでしょうか?
その情報が店舗のレジシステムに届かず、発売日にお店に並んでも「存在しない商品」としてスキャンできません。
お客様はレジで待たされ、お店は混乱し、商品は売ることができなくなってしまいます。
これは新商品に限りません。
販促の登録が遅れれば、せっかく企画した「週末セール」も実施できなくなります。
商品の安定供給も、日々の価格設定も、すべてがこの「締め日」に基づいて動いているのです。
華やかなヒット商品を生み出すMDは、例外なく、この「仕組み」を深く理解し、地味とも思えるスケジュールや締め日を守る意識が非常に高い方ばかりでした。
日常の「当たり前」を支える、地味で誠実な仕事

この記事では、商品が棚に並ぶまでに必要な「仕組み」について、3つのポイントをご紹介しました。
- 全ての商品は「商品マスタ」と「バーコード」というデータの土台の上にあり、それが仕入れや在庫管理も支えていること。
- MDの重要な仕事である「安定供給」や「販売促進」は、緻密なスケジュール管理によって成り立っていること。
- それらを支える厳格な「締め日」があり、それを守ることが、私たちの「当たり前」の買い物につながっていること。
MDの仕事と聞くと、新商品を企画する華やかなイメージがあるかもしれません。
しかし、その裏側は、商品の安定供給を守るための地道なデータ登録やスケジュール管理の積み重ねなのです。
でも、この仕組みがしっかりしているからこそ、私たちは毎日安心して商品を選び、正しい価格で買うことができています。
次にスーパーやコンビニで新商品を見かけたら、「これはいつ頃から準備されて、どんな仕組みでここに届いたんだろう?」と、その裏側にある「時間」や「仕組み」に、ほんの少し思いを馳せてみてください。
モノの裏側にある「当たり前」を支える仕組みを知ること。
それが、情報に振り回されない「自分らしい選択眼」をみがく、小さなきっかけになれば嬉しいです。



