なぜ、あの商品は一番手前にあるのか?元商品部が教える、コンビニの棚の「裏側」と賢い選択

買い物をしている時、ふと「どうしてコンビニの棚はいつもこんなに整っているんだろう?」と感じたことはありませんか?

限られたスペースの中で、商品は行儀よく並び、いつも私たちの正面を向いています。
実はあの整然とした景色は、単なる店員さんの几帳面さだけが理由ではありません。

そこには、全国へ情報を発信する「本部」と、それを自身の経営判断で取捨選択する「店舗(オーナー様)」の、真剣なやり取りの結果が表れています。

今回は、かつて商品部でひたすら商品データ(マスタ)を登録し、店舗への案内資料を作成していた私の視点から、棚の裏側にある「仕組み」と、それを知ることで見えてくる「買い物で失敗しないための視点」についてお話しします。

商品の「サイズ」入力は、店舗への「提案」を作るための第一歩

私が商品部にいた頃、新商品が出るたびに必ず行っていた業務があります。
それは、商品パッケージの「幅・高さ・奥行き」をミリ単位でシステム(商品マスタ)に登録することです。

地味な作業ですが、これは単なる記録ではありません。

このデータは、本部が作成する「棚割(たなわり)」や「モデルゴンドラ」という陳列の参考モデルを作るための基礎データになります。

「この棚のサイズなら、計算上はこのお弁当がこれだけ並びますよ」という、いわばパズルのシミュレーション図です。

しかし、これはあくまで参考例に過ぎません。

本部が「この店はこの商品をここに置いてください」と勝手に決めることはできないからです。

お店の棚は、その店を経営するオーナー様のものです。

私たちが正確な数値を入力していたのは、現場のオーナー様や店長さんが売り場を作る際、「入ると思ったのに入らない!」といった物理的なトラブルで時間を無駄にしないよう、正確な「寸法の目安」を提供するためだったのです。

商品がいくつ並ぶかは、オーナーの「経営判断」で決まる

よく「コンビニ本部は、商品を並べる列数(フェイス数)まで細かく指示している」と思われがちですが、それは少し誤解があります。

本部は「この商品は2列並べてください」といった具体的な数字の指示はできません。

フランチャイズ加盟店のオーナー様は独立した経営者であり、何をどれだけ売るかを決める権限は、現場にあるからです。

本部ができるのは「情報」の提供だけ

では、本部は何もしていないのかというと、そうではありません。

私たちは「この商品は先行地域でこれだけの実績があります」「SNSで今、これだけ話題になっています」といった売れる根拠(情報)を徹底的に集め、店舗へ案内します。

その情報を受け取ったオーナー様が「うちの店のお客さんには刺さる!」と判断すれば、その商品は広く(多フェイスで)展開されますし、「うちは年配の方が多いから違うな」と思えば控えめになります。

「多フェイス」の商品はエリートである

つまり、もしあなたがお店で「2列、3列と広く並んでいる商品」を見かけたら、それは「本部が情報を発信し」かつ「現場のオーナー様も売れると確信した」商品だということです。

本部と現場、二重のフィルターを通過し、プロ同士の合意が取れた商品。

そう考えると、棚で幅を利かせている商品が、失敗のない「間違いのない選択」に見えてきませんか?

整った棚は、見えない「安心」のサイン

もう一つ、棚を見る上で大切なのが「整頓されているかどうか」です。

商品が売れて凹んだ場所を直し、手前に出す作業を「前出し(フェイスアップ)」と呼びますが、これには見栄え以上の重要な意味があります。

システムの網を抜ける商品を、誰が守るか

コンビニには、お弁当やおにぎりのように店舗で消費期限を管理する商品(インストアコードがついた商品)と、お菓子やペットボトル飲料のようにメーカーでバーコードが印刷された商品(ソースマーキング商品)があります。

チェーンによっては、インストアコードがついた商品は期限が切れるとレジでエラーが出る仕組みを導入し、誤販売を防いでいます。

しかし、それ以外の一般的な商品は、基本的に人間が目で見て期限管理をしています。

だからこそ、「棚が整っているか」を見るのが重要になるのです。

忙しい中でもこまめに商品を前出しし、顔(正面)を揃えているお店は、スタッフの目配りが売り場の細部まで行き届いている証拠です。

そうしたお店は、期限管理はもちろん、温度管理や清掃といった「見えないリスク」への対策もしっかり行われている傾向にあります。

「商品が乱雑に置かれているけれど、欲しいものがあったから買う」のも一つの選択ですが、「いつも棚が整っているお店で買う」ことは、見えない安心と安全にお金を払う、とても賢い消費行動だと言えるでしょう。

棚の向こう側にいる「人」の意思を感じてみる

コンビニの棚は、ただ商品が並んでいるだけの場所ではありません。

  • 正確な情報を届けようとする本部のデータ
  • 「これを売りたい」と決断したオーナー様の経営判断
  • 品質を守ろうとするスタッフの日々の管理

これらが融合して、あの整然とした売り場が作られています。

次にコンビニに入った時は、商品のパッケージデザインだけでなく、「どのくらい広く置かれているか」「綺麗に並んでいるか」を少しだけ意識してみてください。

棚の向こう側にいる人たちの意思を感じ取ることで、宣伝文句に惑わされない、あなたにとって本当に価値のある商品が見つかるはずです。

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