「気に入っていたお惣菜が、気づいたら棚から消えていた」
「話題の新商品を買ってみたけれど、期待外れだった」
日々のお買い物で、そんな経験をしたことはありませんか?
限られた予算と時間の中で選ぶなら、やはり自分にとって価値のある「当たり」の商品に出会いたいものです。
実は、商品が長く愛される定番になるか、それともすぐに消えてしまうかは、その商品がお店に並ぶ「前」の段階で、ある程度決まっていることがあります。
私はかつて、大手企業の商品部で、お弁当やパンといった「日配(デイリー)商品」のデータ管理を担当していました。
商品の情報をシステムに登録する業務を通して見えてきたのは、商品の「現実」そのものでした。
今回は、商品マスタやシステム管理の裏側を見てきた立場から、売り場に隠された「商品の本質」を見抜くヒントをお話しします。
商品マスタにあるのは「事実」だけ。コンセプトは売り場に届かない

新商品が発売される際、私たち管理部門は必ず「商品マスタ」という商品の戸籍のようなデータを作成します。
開発会議の段階では、「30代女性の癒やしに」「こだわりの国産素材で」といった熱いコンセプトやターゲット論が交わされています。
しかし、システムに登録されるマスタデータには、そういった開発者の「想い」や「狙い」は一切入りません。
そこにあるのは、「価格」「原価」「内容量」「賞味期限」、そして事務的な「アレルゲン情報」といった、客観的な「数値(スペック)」だけです。
実はこれ、私たち買い物客にとっても、とても重要なポイントなのです。
なぜなら、売り場で商品を手にするお客様もまた、開発者の熱いプレゼンを聞くわけではないからです。
お客様が判断するのは、マスタデータと同じく、目の前にある「価格」と「量(スペック)」という事実だけです。
いくら開発段階で素晴らしいコンセプトがあっても、最終的にアウトプットされた「数値(価格や量)」が、お客様の生活感覚とズレていれば、その商品は手に取られません。
お買い物の際、パッケージの美しい写真や「贅沢」「こだわり」といったキャッチコピーに惹かれることがあると思います。
そんな時こそ、一度冷静になって数字(事実)を見てください。
「毎日の食事として、この価格と量は適正か?」
言葉で飾られたコンセプトではなく、数字という事実に納得できた商品こそが、生活に定着する「正解」です。
売り場の「一等地」は、店舗担当者からの「推薦状」

商品部からは毎日、膨大な数の新商品案内が店舗に送られます。
しかし、売り場のスペースは有限です。
私が担当していた日配商品は特にサイクルが早く、本部の人間として「この商品は売れる!」と送り出しても、実際の店舗での発注数とズレが生じることがありました。
なぜなら、最終的にお客様に商品を届けるのは、一番お客様に近い店舗の担当者だからです。
どれほど本部やメーカーが力を入れた商品でも、現場のプロが「うちのお客様には合わない」と判断すれば、その商品は棚の目立つ場所には置かれません。
逆に言えば、目線の高さ(ゴールデンゾーン)にあったり、フェイス数(商品を横に並べる数)が多かったりするのは、厳しいプロの目で「これはお客様に喜ばれる」と判断された、選ばれし商品なのです。
広告やCMのイメージよりも、目の前の「棚」を信じてみてください。
お店側が自信を持って「食べてみてほしい」と推している商品は、やはり満足度が高いことが多いものです。
バーコードが教えてくれる、「メーカーの味」と「チェーンの味」

最後に、少しマニアックですが、私が専門としていた「バーコード」の話をさせてください。
普段なにげなくスキャンされているバーコードですが、大きく分けて2つの種類があることをご存じでしょうか。
一つは、パッケージに最初から印刷されている「ソースマーキング」。
もう一つは、白いラベルシールなどに印字されている「インストアマーキング」です。
これは単にシールの違いではなく、「誰がその商品を管理しているか」の違いを表しています。
ソースマーキング(印刷済み)の商品
メーカーが管理する商品です。
お菓子や加工食品だけでなく、牛乳などの日配品も含まれます。
これらは「メーカーの責任」で作られており、いつどこで買っても変わらない「標準化された品質」が保証されています。
インストアマーキング(白ラベル等)の商品
私たち小売チェーン側が独自にコードを管理している商品です。
お弁当や惣菜、パンなど、近隣の工場(プロセスセンター)で作られるものが多く、賞味期限は1〜5日前後と短めです。
これらは「そのチェーン独自の味」として開発されたものです。

私たちは買い物の際、無意識にこれらを混ぜてカゴに入れていますが、この違いを知っておくと選び方の視点が変わります。
「いつものあのメーカーの味が欲しい」ならソースマーキングを。
「今日はこのスーパーならではの、独自のおかずを楽しみたい」ならインストアマーキングを。
バーコードを見ることは、それが「メーカーの商品」なのか、「そのお店(チェーン)が自信を持って送り出す独自商品」なのかを見極める、小さな手助けになります。
賢い選択は、作り手と売り手への「共感」から

買い物は、単にモノを手に入れる作業ではありません。
その商品の向こう側には、仮説を立てて仕様を決めた人、自信を持って棚に並べた店舗の人、そして適正な価格で届けようと計算した人がいます。
商品そのものを見るだけでなく、
- キャッチコピーだけでなく、価格と量のバランスに納得できるか?(スペックの確認)
- お店が自信を持って並べているか?(棚の位置)
- メーカーの定番か、チェーンの独自商品か?(バーコードの役割)
この3つの視点を持つだけで、いつものスーパーの景色が少し違って見えてくるはずです。
膨大な情報に振り回されるのではなく、売り場からの無言のメッセージをご自身の目で受け取り、納得のいく「賢い選択」を楽しんでいただければと思います。



